中小規模のビルメンテナンス会社と業界の課題とは

2025年7月3日配信

カテゴリ:
DX ビルメンテナンス業界 営業 採用

株式会社船井総合研究所(船井総研)警備ビルメンテナンス経営研究会です。中小規模のビルメンテナンス業を営む経営者・幹部・人事担当者様に向けて本コラム記事では、業界全体が直面する11の主要課題を整理しながら、貴社の経営強化や人材対策、営業戦略に活かせるヒントをお届けいたします。

中小規模のビルメンテナンス会社が抱える代表的な経営課題とは?

ビルメンテナンス業は、建物の安全性や清潔さを守る非常に重要な仕事でございます。しかしその一方で、現場を支える中小企業の経営は年々厳しさを増しております。

とくに人手不足による人材確保の困難、そして取引単価の下落などにより、業績を安定的に伸ばすことが難しい状況に置かれております。

多くのビルメンテナンス会社では元請けからの受託構造に依存しており、営業の主導権を握ることが難しい現実もございます。自社の営業力を育てられず、業績改善の手立てが限定されてしまうのが実情です。

一方で、現場の品質を維持しながら法令遵守や教育を徹底しなければならないため、経営者や幹部の負担は非常に重くなっております。現場業務と管理業務の両立が求められる中、戦略的な経営の余地が限られているのも課題でございます。

このような状況を打開するには、業界構造を正しく把握し、自社の置かれている立場と強み・弱みを客観的に見つめ直す必要がございます。

人材不足と高齢化の二重苦が現場を直撃

中小規模のビルメンテナンス会社にとって、人材確保と維持は喫緊の経営課題でございます。とくに、清掃業務や設備保守、警備業務といった現場の仕事は、慢性的に人が足りておりません。

厚生労働省が発表した有効求人倍率を見ても、ビルメンテナンス業における求人は年々高止まりを見せており、とくに地方では採用難が顕著です。

加えて、現場で働く従業員の高齢化も深刻であり、60代・70代のスタッフに頼らざるを得ないケースが増えております。これは、今後の事業継続に向けて重大なリスクとなります。

若年層からの応募が少ない背景には、「仕事がキツい」「やりがいを感じにくい」といったイメージが根強くあることが挙げられます。また、待遇面でも大手と比べて差があるため、中小企業ではますます人が集まりにくくなっております。

こうした人材難を放置すれば、営業を拡大しようとしても現場対応が追いつかず、業績を伸ばすどころか受注機会を失う事態にもなりかねません。

したがって、人材戦略は経営戦略の根幹として捉える必要があり、教育制度や定着施策を含めたトータルな見直しが求められます。

採用活動の停滞と若年層離れの現状

若手人材がビルメンテナンス業界から離れているのは、非常に懸念すべき傾向でございます。求人広告を出しても応募がまったく来ない、面接をしても辞退が続くという声が多く寄せられております。

若年層が関心を持ちにくい理由として、第一に「将来性が見えづらい」ことが挙げられます。会社側がキャリアパスを提示できていない場合、仕事に魅力を感じてもらうのは困難でございます。

また、ビルメンテナンスの仕事内容があまりにも定型的・単調であると見なされてしまう傾向があるため、自己成長やスキルアップの観点からも敬遠されがちです。

さらに、DXやICTの導入が遅れていることも一因です。若い世代ほど、仕事においてもデジタル環境が整っているかどうかを重視いたします。紙の作業や手作業が多い会社には魅力を感じない可能性がございます。

経営側がこうした時代の変化に気づかず、従来型の採用方法にこだわり続けてしまうと、結果的に人が集まらない状態が長期化し、組織全体の活力を失うことにつながってしまいます。

今後は、採用活動そのものを「ブランディング」として捉え、自社の存在意義やビジョンを明確に打ち出す必要がございます。

価格競争と取引単価の下落による収益圧迫

ビルメンテナンス業界では、受託価格の下落が深刻な経営問題となっております。特に中小規模の企業は元請け企業から価格を抑えられる傾向が強く、健全な収益構造を保つことが困難になっております。

公共施設や商業施設などの清掃・設備管理業務においても、入札制度による価格競争が激化し、極端な低価格での落札が常態化しております。その結果、必要な人件費や教育費、設備投資などを削るしかなくなり、業務品質や人材の定着にも悪影響が及んでしまいます。

このような状況が続くと、いくら仕事量が増えても業績は伸びず、経営の体力が削られていく悪循環に陥ります。

また、顧客の要望が年々高まる一方で、それに見合った価格改定ができないケースも多くございます。「長年の付き合いだから」「価格を上げると契約を切られるかもしれない」といった心理が働き、値上げ交渉に踏み出せない経営者も少なくありません。

しかし、収益が確保できなければ、人材育成や営業強化など将来への投資ができません。そのため、顧客との関係性を大切にしながらも、適正価格で受注できる体制づくりが求められております。

現場の品質管理とクレーム対応の難しさ

ビルメンテナンス業において、現場の仕事はお客様からの信頼を得る最前線でございます。しかし、人材不足や業務量の増加により、品質管理が難しくなっている会社が増えております。

例えば、清掃の手順や点検作業が標準化されていない場合、現場スタッフごとの判断に頼ることとなり、結果的に品質にばらつきが生じてしまいます。

また、経験の浅い新人スタッフが即戦力として現場に投入されるケースも多く、十分な教育や指導がなされないまま業務にあたっていることが、クレームの原因になることもございます。

クレームの内容には、「トイレの清掃が行き届いていない」「照明が切れていたまま放置されている」など、日常的な管理の不備に関するものが多くございます。こうした小さなミスが、会社の信用を大きく損なう結果となってしまいます。

現場品質を守るには、作業マニュアルや点検チェックリストの整備に加えて、日報・報告体制のデジタル化や、定期的な巡回指導体制の構築が効果的でございます。

また、万が一のトラブル発生時には、迅速かつ誠実な対応が重要であり、クレームを「改善のチャンス」として捉える姿勢も欠かせません。

法令遵守と教育体制の不備が招くリスク

ビルメンテナンス業は、建築物衛生法や労働安全衛生法、消防法など、さまざまな法律によって業務が規定されております。中小規模の企業にとって、これらの法令を正しく把握し、遵守し続けることは大きな負担となっております。

とくに、設備管理や空調点検などには国家資格が必要な業務もあり、資格者の確保と管理も求められます。資格取得の支援体制が整っていない会社では、慢性的な資格者不足に悩まされております。

さらに、労働災害の発生リスクも高く、階段の転倒事故や高所作業中の転落など、命に関わる重大事故も起こり得ます。事故が発生すれば、会社の信用は大きく損なわれ、損害賠償や行政指導など法的リスクも高まります。

そのため、業務の安全管理と教育体制の整備は、経営課題として最優先に取り組むべき事項でございます。

教育といっても、一度の講習や研修で終わらせるのではなく、日常的に安全意識を高める取り組みや、マニュアル・映像教材を活用した継続的な学びの場づくりが効果的です。

ICTやDX導入の遅れが競争力を低下させる要因に

近年、多くの業界で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が進んでおりますが、ビルメンテナンス業界では依然としてデジタル導入が進んでいない企業が多数ございます。

点検記録を紙で管理していたり、シフト調整を電話や手書きで行っていたりするなど、アナログな業務運営が主流となっている会社も少なくありません。

このような状態では、仕事の生産性が上がらないだけでなく、若手人材から「古い会社」という印象を持たれ、応募すら来ないという事態にもつながってしまいます。

また、業務の属人化が進んでいる会社ほど、担当者が休むだけで仕事が止まる、という非効率な状態に陥る可能性もございます。

デジタルツールを活用すれば、点検結果をリアルタイムに共有したり、勤怠管理や営業管理の自動化も可能となり、経営全体の可視化が進みます。

ただし、導入するだけでは意味がなく、現場のスタッフが使いこなせるようにするための教育と仕組みづくりが必要不可欠です。小さな一歩でも、まずは業務のどこか一部からでも着手することが成功の鍵でございます。

元請け企業との関係性と受託構造の課題

中小のビルメンテナンス会社の多くは、ゼネコンや管理会社などの元請け企業から仕事を受けております。そのため、仕事の裁量や価格交渉、契約条件について主導権を握ることが難しい構造となっております。

また、契約内容が不透明であったり、突然の仕様変更や業務追加が発生したりと、現場が混乱する要因も数多く存在します。

本来であれば、自社のサービス力を武器にして直接取引を増やしていくことが理想ですが、営業力の不足やノウハウ不足から、なかなか踏み出せない企業が多いのも実情です。

そこで今後は、「選ばれる下請け」から「選ばれるパートナー」へと、会社の立ち位置を変えていく必要がございます。

そのためには、品質管理の徹底や法令遵守の実績、資格者の充実、報告書類の正確さといった、他社との違いを明確に打ち出していくことが大切です。

さらに、受託ビジネスに頼らず、自社で直接契約を獲得できるような営業戦略を構築することも、長期的な経営安定につながります。

中小企業ならではの資金繰り・投資判断の難しさ

中小規模のビルメンテナンス会社が抱える根深い問題のひとつが、資金繰りの不安定さでございます。事業の収益性が低く、請負価格が一定しない中では、毎月の運転資金の確保に頭を悩ませる経営者も少なくありません。

特に、現場人件費や資材費が先行して発生する一方で、顧客からの入金までに数カ月のタイムラグがある場合、資金繰りが厳しくなる傾向がございます。

さらに、将来の成長に向けてICTや人材教育などへの投資を検討していても、日々の支払いに追われる中では「わかっていても踏み出せない」という経営判断の難しさが浮き彫りになります。

また、金融機関からの融資を受けるにしても、決算書の内容や借入金の返済実績など、財務面の健全性が重視されるため、設備投資やDX導入が後回しにされるケースも散見されます。

このような悪循環から抜け出すには、まずは収支構造を見直し、適正な利益率を確保できる案件の獲得に注力する必要がございます。

加えて、補助金や助成金制度の活用も有効な選択肢でございます。たとえば「小規模事業者持続化補助金」や「IT導入補助金」など、中小企業庁が支援する制度を活用すれば、一定の自己負担でDX化や採用強化につなげることが可能です。

資金の流れを可視化し、未来の業績アップに直結する分野へと、戦略的に予算を配分することが、安定経営への第一歩となります。

これからのビルメンテナンス業界で生き残るために必要な視点とは

中小規模のビルメンテナンス会社が今後も業界で生き残り、成長を遂げるためには、これまでの常識にとらわれない経営視点が求められております。

第一に大切なのは、「選ばれる会社」を目指すという姿勢でございます。元請けに依存するのではなく、自社が顧客に直接価値を提供する存在になるために、サービスの質、社員の姿勢、スピード対応など、細部まで意識を行き届かせる必要がございます。

また、人材に対する価値観を転換することも重要です。単なる労働力としてではなく、「会社の財産」として教育・育成に時間と資金を投じる姿勢が、結果的に業績にも良い影響を与えます。

加えて、現場力と営業力の両立を図ることも不可欠です。現場での仕事が評価されても、それを商談につなげる営業体制がなければ、継続的な受注にはつながりません。自社の強みや実績をわかりやすく伝える資料や営業トークの整備は、これからのビルメンテナンス業に必須といえます。

さらに、ICTやAIの進化を無視せず、活用することで他社との差別化を図ることも効果的です。たとえば、清掃の進捗状況をリアルタイムで報告できるシステムを導入することで、顧客満足度は格段に向上します。

環境意識やSDGsへの対応も含めて、社会全体の変化に合わせた事業運営が、今後の中小企業経営の鍵となります。

結論・まとめ

本コラムでは、ビルメンテナンス業を営む中小企業が直面している11の重要課題を取り上げ、それぞれの背景や解決の方向性について詳しくご紹介いたしました。

人材不足、価格競争、法令遵守、資金繰りといった目の前の問題だけでなく、業界構造や顧客ニーズの変化も含めて、複合的に考えることが必要な時代に突入しております。

しかしながら、課題が多いからこそ、今後の経営方針や人材戦略、営業方針を見直す絶好の機会とも言えるでしょう。

経営資源が限られている中小企業だからこそ、ひとつひとつの判断が業績に直結します。そして、どのような戦略を選ぶにしても、最終的に成果を生み出すのは「人」であり、現場で働く従業員の力でございます。

今後は、現場と経営をつなぐ中核人材の育成や、業務効率化と品質向上を両立させる仕組みづくりが欠かせません。また、営業力を育て、自社で直接顧客を獲得できる体制を整えることで、下請け体質からの脱却を図ることも重要なテーマです。

本コラムが、皆様の経営に少しでも気づきとヒントをもたらし、次なる一手を踏み出すきっかけとなれば幸いでございます。

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