株式会社船井総合研究所(船井総研)警備ビルメンテナンス経営研究会です。施設警備業の中小企業が、採用難・単価停滞・品質のバラつき・法令対応の高度化という壁を越えるための実践ガイドです。最新の公的情報を踏まえ、経営・人材・教育・業務設計・デジタル活用まで、持続可能な成長の設計図を提示します。
施設警備業における「持続可能な成長」とは何かを再定義する
持続可能な成長は、
(1)法令適合と社会的信頼の確保
(2)人材の安定確保と生産性改善
(3)顧客満足と収益性の両立
(4)事業継続力(BCP)
の四点を同時に成立させる経営です。
まず出発点として、業界の規模と人員構成を把握しましょう。警察庁の最新統計では、令和6年末時点で警備業者数は1万811社、警備員数は約58万7,848人。臨時警備員は全体の約8.8%、女性比率は約7.3%です。これは、採用市場の構造と要員ミックスを設計するうえでの基礎データになります。
持続可能性の基盤には、個人情報保護・適正取引・長時間労働の抑制・教育の標準化・サイバー/物理の両面セキュリティが含まれます。以降の章で、各要素を中小企業でも運用可能な水準に分解します。
成長戦略を描く前に押さえるべき施設警備業界の現状分析
外部環境では、人口減少・少子高齢化による採用難、物価・人件費の上昇、顧客側のコンプライアンス要求の高度化、そして業務のデジタル化が同時進行しています。内部環境では、隊員の経験依存やOJT偏重、現場別の品質ばらつき、営業・見積の属人化、法令対応のドキュメント整備不足が典型的課題です。
ここで三つの現状指標を定点観測に組み込みます。
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法令適合度(教育実施記録、36協定・残業上限、個人情報保護の運用) 
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人材健全度(採用充足率、定着率、現任教育受講率) 
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収益・品質バランス(契約単価の見直し頻度、巡回・立哨の工数最適化、是正処置のリードタイム) 
この三指標を四半期ごとに可視化し、「法令→人材→収益」の順でテコ入れをかけると、過度な単価競争に巻き込まれにくくなります。
経営基盤を強化するための組織体制と管理職の育成方法
管理職(現場管理者・統括隊長・営業責任者)は、法令・品質・収益を束ねる要。以下の三層スキル標準を設け、昇格・賃金と連動させます。
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法令・コンプライアンス:警備業法関連の通達理解、教育記録・要件の適正管理、個人情報保護の実務運用。 
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業務運営・品質:勤務割(シフト)設計、工数配分、是正指示、ヒヤリハット収集・対策。 
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収益・顧客対応:見積の論拠整理(時間積算・要員配置根拠)、契約更改での合意形成、クレーム未然防止。 
育成は「現任教育×現場コーチング×eラーニング」の三位一体。現任教育の運用では、受講確認方法やオンライン講習の本人確認など、最新通達の要件に適合させます(例:対面の身分確認、オンライン時の本人確認・受講管理など)。
持続的な業績向上を実現するための収益構造改革
単価×稼働×コストの三側面から、次のように設計します。
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単価の是正 
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労働時間上限や最低限の教育工数、監督工数、帳票作成時間を見積根拠として明文化。月45時間・年360時間の原則、特別条項でも年720時間等の上限を越えない設計で、安全な人時積算を提示します。 
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個人情報保護やサイバー対策等、コンプライアンスに要する固定費を「品質要件」として提案書に組み込みます。 
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稼働の安定化 
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常用・臨時のミックス比率を案件特性に合わせて設計。臨時比率が高い拠点は教育・品質ばらつきリスクが上がるため、定期案件は常用比率を引き上げる方針とします(全体の臨時比率の把握は業界統計を参照)。 
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コスト適正化 
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勤怠・配置・巡回のデジタル化(例:勤怠実績と配置計画の差異検知、巡回ログの自動収集)。 
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教育の標準コンテンツ化で講師工数を削減し、受講確認は通達要件に沿ってシステム化。 
施設警備員の採用・定着・戦力化に向けた人材戦略の立て方
採用難の時代は、採用力と定着力の同時強化が王道です。
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採用力:JD(職務記述)に、法令遵守と教育体系を明記し、未経験者の安心材料にします。 
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定着力:残業上限の運用・36協定の透明化、希望シフトの考慮、資格取得支援や現任教育の見える化、勤務表の事前確定率のKPI化。 
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戦力化:初回配属前の標準教育パッケージ(法令・個人情報・勤務基本動作・報告連絡)をeラーニング+現場演習で実施。受講・本人確認・学習履歴の証跡管理を徹底します。 
教育・研修制度を活用した現場力と品質の底上げ手法
教育は「要件適合」と「品質創出」の二階建てで設計します。
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要件適合:警備員指導教育責任者講習・現任教育の運用を最新通達に合わせ、本人確認・受講管理・記録保存を標準化。教育を実施したという事実だけでなく、誰が・何を・どのレベルまで理解したかを可視化します。 
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品質創出:事故・クレーム事例から「類型別教材」を作成。ヒヤリハット→是正→教材化→再教育のPDCAを月次で回し、教育内容を現場の具体に寄せます。 
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情報管理:教育資料の取り扱い・配布・保管は、個人情報保護ガイドラインに則ったルールで運用。 
顧客満足と信頼を高めるための業務改善とデジタル活用
可視化・標準化・即応性がカギです。
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可視化:立哨・巡回の実績、入退室記録、発見事項、是正のリードタイムをダッシュボード化。 
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標準化:現場手順書は「目的→リスク→手順→証跡」の順で1現場1枚に要約し、要員交代時の品質の継続性を担保します。 
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即応性:インシデント報告の一次対応テンプレートを持ち、個人情報や映像データの取扱いはPPCの指針に則って権限管理・記録を実施。 
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サイバー/物理の連携:警備会社の経営としても、サイバーセキュリティ経営ガイドライン(METI/IPA)に沿って、経営者責務・重要10項目の体制を整え、顧客情報や装置への不正アクセスを未然に抑止します。 
環境変化に強い経営を実現するためのリスクマネジメント
三層のリスクを重ねて扱います。
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法令運用リスク:教育・記録・人員配置の運用不備は是正命令・信用失墜に直結します。通達・通知の更新を半期ごとに点検し、社内規程と帳票へ反映します。 
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労務・労働時間リスク:残業上限・特別条項の範囲内で配置を組み、繁忙期の上限管理と健康確保を両立。 
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情報管理リスク:個人情報・マイナンバー・映像の取り扱い、アクセス権管理、ログ保存、委託先管理を明文化。 
中小施設警備会社が取り組むべき「地域密着型経営」の重要性
中小企業の定義や小規模企業者の考え方を踏まえると、地域密着の深耕が競争上の優位になります。地域の公共施設・医療機関・教育施設・商業施設などの需要は季節変動があり、短時間・短期案件も多いのが実情。地域密着の営業・採用・教育・配置体制は、反応速度・信頼・定着に直結します。
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営業:地場ニーズ(開店・催事・改修)を捉え、短期の保安・夜間巡回の定型商品を用意。 
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採用:通勤距離・希望時間帯を重視し、家庭・学業・副業との両立を設計。 
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教育:地域特有の災害・気象・イベントを教材化。 
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品質:「地域の安心」を共通価値として社内に浸透させ、顧客コミュニケーションの温度差をなくします。 
施設警備業における持続可能な成長戦略の実行プロセスと今後の展望
実行は90日スプリント×4回=年間設計が現実的です。
【1】0~90日:
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法令・教育・個人情報・労働時間の適合ギャップ診断 
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教育運用の本人確認・記録標準を確立(オンライン含む) 
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勤怠と配置の差異検知を導入、長時間労働の予兆管理を開始 
【2】91~180日:
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見積の人時設計書式を統一、契約更改の論拠を標準化 
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現場手順書の一枚化(目的→リスク→手順→証跡)と教育連携 
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インシデント一次対応の時系列テンプレート整備(個人情報運用含む) 
【3】181~270日:
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地域密着商品の組成(短時間・短期・夜間)と原価設計 
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管理職の三層スキル認定制度開始 
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サイバー/物理の二面統合(経営ガイドライン10項目の導入計画) 
【4】271~360日:
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教育PDCAの教材化サイクルを月次で定着 
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契約更改の単価是正・品質KPIレビュー 
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BCP演習(自然災害・停電・通信障害)を年1回実施 
将来は、データ連動型の受託モデル(勤怠・巡回・入退室・是正の一体管理)と、人材育成のデジタル証跡が標準になります。ここを先んじて整備する企業は、単価と信頼の両立に成功します。
結論・まとめ
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法令適合は“競争力”:教育・記録・個人情報・労働時間の見える化は、顧客との合意形成の根拠になり、単価の適正化を後押しします。 
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人材は“資本”:採用・定着・戦力化は、勤務表の事前確定率や現任受講率など、数値で回すことで成果が安定します。 
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品質は“仕組み”:現場手順の一枚化、インシデントの時系列整理、教育への教材反映でばらつきを縮小。 
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収益は“設計”:人時設計・法令要件・教育固定費を提案書の品質条件として明文化し、単価是正と顧客満足を両立。 
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デジタルは“統合”:METI/IPAのガイドラインに沿った体制で、物理×サイバーを統合し、顧客からの信頼を継続的に獲得します。 
最後に――施設警備業の持続可能な成長は、「遵法→人材→品質→収益」の順で土台を固め、地域密着で磨き上げることです。最初の90日で適合ギャップの可視化から着手し、教育・労務・情報管理の標準化を進めましょう。これが、単価に見合う品質を継続提供し、地域から選ばれ続ける最短ルートです。
参考資料
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警察庁「令和6年における警備業の概況」・事業統計ページ。業者数・警備員数・雇用別状況などの最新統計。 
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警察庁通達(現任指導教育責任者講習の運用/教育関係・適正取引関連)。教育運用・本人確認・オンライン講習の要件など。 
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厚生労働省「時間外労働の上限規制(働き方改革特設サイト)」。残業の原則・特別条項の上限。 
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個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン」等。個人情報・特定個人情報の取扱い指針。 
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経済産業省/IPA「サイバーセキュリティ経営ガイドラインVer3.0」および支援ツール。経営者責務・重要10項目。 
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中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」「FAQ」。地域密着戦略を検討する際の規模区分の基礎。 
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