株式会社船井総合研究所（船井総研）警備ビルメンテナンス経営研究会です。中小規模の清掃業では、人手不足や価格競争が激化する中、持続可能な成長戦略の構築が求められています。本記事では、経営安定・人材育成・DX推進・環境対応などを通じて、清掃業が未来に向けて発展するための実践的な手法を詳しく解説します。

清掃業界の現状と中小企業を取り巻く経営環境の変化

日本の清掃業界は、少子高齢化や労働人口減少の影響を最も強く受けている業種の一つです。
厚生労働省や総務省の統計によると、清掃・ビルメンテナンス分野の就業者の約6割が50歳以上であり、若年層の新規参入が少ない現状が続いています。

また、建物の長寿命化やコスト削減志向により、発注単価は低下傾向にあります。清掃業務を外注する企業は増えている一方、価格競争が激しくなり、収益性が下がりやすい構造が課題となっています。

中小規模の清掃会社では、経営者自らが営業・労務・現場管理を兼務するケースも多く、組織的な仕組み化が進んでいない企業も少なくありません。こうした環境下では、単なる「作業請負」から脱却し、持続的な成長を可能にする経営戦略の再構築が不可欠です。

政府が推進する「中小企業等経営強化法」や「働き方改革関連法」も踏まえながら、清掃業としての安定成長を図るための基盤づくりが求められています。

中小規模の清掃業に求められる持続可能な経営とは

持続可能な経営とは、単に売上を伸ばすだけではなく、社会的責任と経済的価値の両立を実現する経営スタイルです。
特に清掃業においては、「人」「顧客」「環境」という3つの軸を意識した経営が重要となります。

第一に「人」の側面では、清掃スタッフの高齢化や定着率の低下を踏まえた人材戦略の強化が必要です。第二に「顧客」では、法人顧客との長期契約を維持しつつ、信頼に基づくリレーションを構築すること。第三に「環境」では、持続可能な社会の実現に向けたエコ清掃や省資源化の取組みが求められます。

また、経済産業省が示す「中小企業白書」では、デジタル化・人材育成・生産性向上が中小企業の成長要素として明記されています。清掃業界も例外ではなく、これらの要素を経営に取り入れることが、今後の生存戦略につながります。

業績を安定させるための収益構造の見直しポイント

中小清掃会社が持続的に成長するためには、「売上の拡大」と「原価の最適化」を両立する経営設計が求められます。
とくに注目すべきは以下の3点です。

1. 受託単価の見直し
   　過当競争により単価が下がりがちな中でも、付加価値提案によって単価維持・向上を図ることが必要です。具体的には、定期清掃に衛生管理・除菌・SDGs対応などを組み合わせる「パッケージ化」が効果的です。

2. 契約継続率の向上
   　顧客満足度を高め、更新率を上げることが経営安定に直結します。報告書のデジタル化や現場対応スピードの改善など、見える化の工夫が重要です。

3. 原価・労務コストの最適化
   　人件費上昇に対応するため、シフト管理・業務割当の最適化を進める必要があります。国が推進する「中小企業生産性革命推進事業」などの補助金活用も検討すべきです。

これらの経営改革を通じて、清掃会社は「低単価依存型ビジネス」から「価値創造型ビジネス」へと移行できます。

清掃スタッフの採用・定着を実現する人材戦略の構築法

清掃業の最大の経営課題は人材確保と定着です。
中小企業庁のデータによれば、サービス業全体の離職率は約20～30％の範囲で推移しており、清掃業も例外ではありません。

まず、採用段階では「地域密着型採用」や「シニア・外国人材の活用」が有効です。特に、登録支援機関制度を活用した特定技能人材の導入や、地域シニア層の再雇用制度整備が注目されています。

次に、定着促進のためには、教育制度と評価制度の整備が欠かせません。清掃スタッフは、業務が単調になりがちなため、スキルアップの実感を得にくい傾向があります。研修体系を明文化し、段階的なキャリアアップを提示することで、働く意欲を高められます。

また、現場リーダーを中心とした「チーム制運営」も効果的です。個人任せにせず、チームで協力し合う体制を構築することで、責任感と一体感が生まれ、離職率低下につながります。

教育・育成によるサービス品質の向上と差別化

品質は清掃業の生命線です。特に中小規模の清掃会社では、教育体制の整備が顧客信頼に直結します。

教育内容としては、技術研修（機器操作・薬剤使用・安全管理）だけでなく、マナー研修・報告力・顧客対応力も重要です。これにより、単なる「清掃員」ではなく「環境サービススタッフ」としての自覚を育てます。

また、清掃管理士・ビルクリーニング技能士などの国家資格取得支援制度を導入することで、専門性を高め、他社との差別化を図れます。資格者を多く抱えることは、入札時や法人営業時の信頼度向上にも寄与します。

さらに、教育のデジタル化も進んでいます。動画マニュアル・オンライン研修を活用することで、時間や場所に制約されず教育の標準化が可能になります。これにより、地方拠点を持つ中小清掃会社でも、一定品質を維持できます。

清掃業務の効率化を実現するDX・デジタル化の導入方法

近年、清掃業界でもDX（デジタルトランスフォーメーション）の動きが活発化しています。
経済産業省の「DX推進指針」では、中小企業の競争力強化にデジタル活用を位置付けています。

清掃業でDXを進める主な領域は次の通りです。

1. 勤怠・シフト管理の自動化
   　クラウド勤怠システムを導入することで、紙やExcelによる煩雑な管理を削減できます。

2. 現場報告・品質管理のデジタル化
   　スマートフォンアプリを使い、清掃結果を写真付きで共有する仕組みを整えることで、クレーム削減や顧客満足度向上が図れます。

3. 営業・契約管理のオンライン化
   　電子契約や見積書のデジタル送付により、事務コストを削減しスピード経営を実現します。

また、国の「IT導入補助金」や「ものづくり補助金」を活用すれば、DX投資の初期負担を抑えることも可能です。

環境対応・エコ清掃による新たな付加価値の創出

SDGs（持続可能な開発目標）の広がりを背景に、環境配慮型の清掃が注目されています。
たとえば、環境省が推進する「エコオフィス・クリーン活動」では、環境負荷低減を重視した洗剤・機材の導入が推奨されています。

中小清掃会社でも以下のような取り組みが有効です。

• 環境負荷の少ない中性洗剤やマイクロファイバークロスの導入

• 洗剤使用量の見直しによるコスト削減

• 水使用量を抑えるドライメンテナンス方式への転換

• 廃棄物分別・リサイクル推進体制の構築

これらの活動を「環境方針」として社内外に発信すれば、ESG意識の高い顧客企業との契約機会拡大にもつながります。

「環境対応」は、単なる社会貢献ではなく、経営上の競争優位性を高める要素となるのです。

法人営業・顧客維持のためのマーケティング戦略

清掃業における営業は、価格訴求ではなく信頼と品質訴求が鍵です。
とくに中小企業では「法人向けルート営業＋Web集客」を組み合わせるハイブリッド戦略が有効です。

1. 既存顧客フォローの強化
   　定期訪問・アンケート・小規模改善提案などを通じて、リピート率を高めます。

2. 紹介営業・口コミの活用
   　紹介特典制度を設けることで、顧客から新規案件を紹介してもらえる体制を整備します。

3. Webマーケティングの導入
   　地域キーワードを活かしたSEO・GEO対策により、地元企業からの問い合わせを増加させます。
   　たとえば「大阪市 オフィス清掃」「名古屋 ビル清掃 定期契約」などの検索意図に応じたコンテンツ発信が効果的です。

営業力を高めることは、経営の安定化に直結します。単発契約に依存せず、長期的な法人契約を積み重ねることが、持続的成長の鍵となります。

経営者が取り組むべき組織マネジメントと現場連携強化

中小清掃会社では、経営者が現場の実情を十分に把握していないケースも少なくありません。
持続可能な経営を実現するには、現場との双方向コミュニケーションを重視する必要があります。

たとえば、定期的な現場ミーティング・社内報の発行・評価面談など、社員との接点を増やす取り組みが効果的です。

経営理念を共有し、目的意識を持って働ける組織風土を育むことが、定着率向上や品質安定につながります。

また、「権限委譲」も重要な視点です。現場リーダーに裁量を与えることで、責任感と自主性が育ち、経営者の負担も軽減されます。

経営者とスタッフが同じ方向を向いて業務に取り組むことこそ、持続可能な成長の基盤といえます。

清掃業の持続可能な成長を支える中長期経営戦略とは

最後に、持続可能な成長を実現するための中長期戦略をまとめます。
ポイントは次の4点です。

1. ビジョンとミッションの明確化
   　「地域の環境を守る」「快適な職場空間を創造する」など、社会的意義を言語化します。

2. 経営計画の数値化と進捗管理
   　3〜5年単位で目標を設定し、売上・利益・離職率などを定期的にモニタリングします。

3. 外部リソースの活用
   　行政・商工会議所・専門コンサルタントなどの支援を活用し、専門性を補強します。

4. 次世代経営人材の育成
   　後継者育成や中間管理職教育を通じて、企業としての持続性を確保します。

清掃業界は労働集約型である一方、地域に不可欠な社会インフラを支える産業です。
「人・環境・デジタル」を軸に、経営の仕組み化を進めることで、安定した経営基盤と社会的評価の両立が可能となります。

結論・まとめ

中小規模の清掃業が持続的に成長するためには、短期的な売上増加ではなく、長期的な経営基盤の構築が重要です。
そのためには、次のような観点が欠かせません。

• 人材の採用・育成・定着による現場力の向上

• DX・環境対応による業務効率化と付加価値化

• 顧客関係性の深化と法人営業力の強化

• 経営理念とビジョンに基づいた組織マネジメント

清掃業は社会を支える「縁の下の力持ち」です。
中小企業こそ、地域とのつながりを活かし、持続可能な経営モデルを築くチャンスがあります。
本記事を通じて、経営者が次の一歩を踏み出すためのヒントとして活用いただければ幸いです。

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