株式会社船井総合研究所(船井総研)警備ビルメンテナンス経営研究会です。中小の2号警備会社において、PMVV(Purpose・Mission・Vision・Value)を策定する際に陥りやすい代表的な失敗を、警備業界の特性や公的資料を参照しながら整理します。経営・人材・組織の視点から具体的なポイントを解説し、現場実践に活用できるチェックリストも併せて紹介します。
PMVVとは何か?2号警備会社における基本的な意義を再確認
中小の2号警備会社が掲げるべきPMVVとは、「存在意義(Purpose)」「使命(Mission)」「将来像(Vision)」「価値観(Value)」の総称です。
特に警備業界では、法令遵守や安全・安心の提供が根幹にあるため、PMVVが経営・人材・業務にいかに結びつくかを明確にすることが重要です。
まず、Purpose(目的)とは、企業が社会において果たすべき存在意義です。2号警備(交通誘導・雑踏警備)を中心とする会社においては「地域の安全を守る」「人とクルマの流れを安心に導く」などが考えられます。
次にMission(使命)は、日々の業務を通じて果たすべき役割です。例えば「建築現場・イベント現場において無事故で警備業務を遂行する」といった具体が挙げられます。
Vision(将来像)は、中長期的に会社がどうありたいかを示します。「地域で信頼されるトップ警備会社となる」「働き手が働き続けられる職場として選ばれる」といった姿です。
Value(価値観)は、社員が日々の行動で共有すべき考え方・信条です。「安全第一」「誠実対応」「チームワーク重視」などが該当します。
このように、PMVVは単なるスローガンではなく、会社運営・人材育成・現場教育と連動させるべき経営ツールと捉えることが肝要です。
なぜ中小の2号警備会社にPMVVが必要とされるのか
中小の2号警備会社がPMVVを策定・運用する意義は、少なくとも次の三点に集約できます。
一つ目は、「働き手の確保・定着」です。警備業界では警備員確保や定着が喫緊の課題となっており、警備業法下の各種資格・教育要件を満たすため、現場を回すだけでも相当なマネジメント力が求められます。
二つ目は、「地域・顧客との信頼構築」です。2号警備業務(交通誘導・雑踏警備)は現場での事故リスクが高く、現場運営・社員対応・顧客対応のすべてにおいて「安心・安全」のブランドが肝となります。PMVVをしっかり示しておくことで、顧客・地域からの信頼を得やすくなります。
三つ目は、「内部統制・運営基盤の強化」です。中小企業では経営資源(人・金・仕組み)が限られています。PMVVを明文化し、経営方針・教育体系・評価制度と連携させることで、日常運営にブレが生じにくくなります。
このように、PMVVは中小の2号警備会社にこそ必要な「組織の羅針盤」となり得るものです。
よくある失敗①:経営者の独断で策定し、現場が理解していない
中小企業では、会社の成り立ちや歴史から経営者の思想が濃く反映されがちですが、そのままPMVV策定を行うと現場とのズレが生まれます。
例えば、経営者が「地域で最も選ばれる警備会社になる」と宣言しても、警備員・現場管理者が「そのために自分は何をすべきか」が理解できていなければ、絵に描いた餅となります。
このような失敗を防ぐためには次の点が重要です。
-
策定段階から社員(特に現場レベル)を巻き込む。
-
策定内容を現場用に言い換え、具体的な行動指針と連動させる。
-
策定後、現場での研修・教育に反映し、理解度を測る。
警備業界の教育体系においても、全国警備業協会と厚労省が共同で「警備員の知識・技能・職務倫理」等を整理したマニュアルを公表しており、企業側にも能力評価シートの活用が推奨されています。
策定だけではなく、「浸透させる」「実践させる」までを見据えることが鍵です。
よくある失敗②:目的(Purpose)が抽象的すぎて行動に落とし込めない
中小の2号警備会社において、「Purpose(目的)」が曖昧・抽象的に設定されてしまうと、現場の日々の「仕事」に結びつきません。
例えば、「安全・安心を提供することで社会に貢献」というのは立派な目的ですが、それだけでは「警備員は何をどうすればいいのか」が伝わらず、現場管理者も判断に迷います。
このような状態を改善するためには、Purposeを以下のように整理するとよいでしょう。
-
どの「対象」と「場面」で、安全・安心を提供するのか(例:建築現場、交通施設、イベント会場)。
-
その場面で「どのような顧客」「誰のために」「どういう価値を」提供するのか。
-
それを実現する際に、自社が他社とどう差別化するのか。
こうした「場面・対象・価値」「自社の特性」が明確になると、Mission・Vision・Valueとの整合性も取りやすくなります。
また、警備業務には法令や安全衛生ルール、教育研修義務などがあり、行動の前提となる枠組みが存在します。例えば、警備業の教育研修義務については厚労省資料にその方向性が整理されています。
目的を具体化しないまま策定を進めると、現場で「何のためにこのルールがあるのか」「自分が何をすべきか」が共有されず、運用止まりで形骸化するリスクがあります。
よくある失敗③:MissionとVisionの区別が曖昧になっている
PMVV策定において、Mission(使命)とVision(将来像)の区別があいまいになってしまうケースも多く見られます。
Missionとは「今日・明日・当面取り組むべき役割」で、Visionは「数年先の会社の姿」です。例えば、Missionに「現場で無事故を徹底する」、Visionに「地域で信頼される警備パートナーとなる」といった整理ができます。
しかし、両者が入れ替わってしまう、あるいは混同されてしまうと、現場の取り組みや評価制度がブレてしまいます。例えば、Missionに「地域で信頼される」という将来像的な文言を入れてしまうと、現場では「日々何をすればいいか」が見えづらくなります。
中小の2号警備会社では、特に現場の規模・担当範囲が限定的であるため、Mission・Visionを明確に区別し、かつそれぞれに対する「行動指針」「数値目標」を設定することが有効です。
また、教育研修・職業能力評価といった体制も、Mission/Visionと紐づけて設計することで、現場社員の動機付け・理解促進につながります。たとえば、厚労省「職業能力開発計画事例」においては、経営理念・教育方針・人材育成方針を連動させた例が紹介されています。
こうした整理がなされていないと、PMVVが単なる掲示物にとどまり、「あれは社長の言葉」「本部だけのもの」と捉えられてしまいます。
よくある失敗④:Value(価値観)が浸透しないまま形骸化する
PMVVの最後の構成要素であるValue(価値観)は、組織文化・行動規範として非常に重要ですが、策定後に現場まで浸透しないまま「標語だけ」が残るケースが散見されます。
中小の2号警備会社では、警備員・現場責任者・管理部の距離が近い反面、教育・研修・評価制度の仕組みが十分でない場合も多く、Valueが「参加・共有」されず孤立しがちです。
浸透を図るためには、次の施策が効果的です。
-
Valueを日常の現場行動と紐づけて、具体的な「行動例」を示す。
-
朝礼・ミーティング・研修等でValueに関するディスカッションを設ける。
-
Valueに沿った行動を評価・褒賞する制度を導入する。
-
Valueを反映した研修教材・指導書を整備する。
例えば、交通誘導警備現場の「誠実対応」「報連相(報告・連絡・相談)」といった価値観を、Traffic Controlシーンの具体行動(ドライバーへの声かけ・誘導サインの確認・服装・制服整備)と紐づけて教育することが考えられます。
さらに、警備業の職業能力評価シートには「職業倫理と職務規律」「地域・顧客とのコミュニケーション」といった知識・能力とともに、会社の経営理念・行動指針が項目として掲げられています。
このように、Valueの共有と定着が現場レベルで機能してこそ、PMVVが組織の文化として根付きます。
よくある失敗⑤:策定後に定期的な見直しを行っていない
PMVVを策定したまま「作ったら終わり」という運用では、経営環境・人材環境・法制度の変化に対応できず、むしろ足かせとなる可能性があります。
警備業界をめぐる環境は、働き手の確保難、賃金交渉、適正取引や価格転嫁の要請などがますます厳しくなっています。例えば、「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」でも、業界における適正取引・価格転嫁の課題が指摘されています。
中小の2号警備会社が陥りやすいのは、「創業時・成長期に策定したPMVVをそのまま放置している」ことです。これには以下のようなリスクがあります。
-
労働環境・法制度改正により、社員が現場で疑問を感じ始める。
-
新たな事業領域やサービス展開(イベント・雑踏、交通誘導)に対してPMVVが適合しない。
-
経営戦略・人材戦略が変化したにもかかわらず、PMVVが更新されず組織内にギャップが生じる。
したがって、定期的な「PMVVレビュー」(例えば年1回以上)とともに、現場・経営層・人事が一緒に見直すプロセスを設けておくことが重要です。見直しにあたっては、現場の声・顧客の声・地域環境の変化を反映させると良いでしょう。
成功するPMVV策定のポイント:社員参加型での構築プロセス
PMVVの策定を成功に導くには「トップダウン」と「ボトムアップ」の両輪が欠かせません。特に中小の2号警備会社では、現場社員との距離が近いという強みを活かして、以下のようなプロセスを検討すると良いでしょう。
-
経営層が自社の状況・将来像を整理する。
-
現場責任者・警備員・管理部門を交えたワークショップを開催し、「我が社の存在意義は何か」「どんな価値観で現場をつくるか」を自由に議論する。
-
ワークショップの内容を整理し、Purpose・Mission・Vision・Value案を草案化。
-
経営層が草案を確認・調整し、正式決定。
-
決定したPMVVを社内に発信し、現場教育・朝礼・資料・システムに落とし込む。
-
定期的に進捗を確認・社員意見を収集し、必要に応じて改訂。
このプロセスにより、社員の“自分たちの言葉”としてPMVVが受け入れられやすくなり、結果として実践に繋がる可能性が高まります。さらに、警備業の能力評価シートにも「会社の経営理念・行動指針等」が共通能力ユニットとして挙げられています。
特に「参加型」で策定することにより、現場の納得感が増し、策定後の浸透・実践がスムーズになります。
PMVVを経営計画・人材育成・顧客対応にどう連動させるか
策定したPMVVを「単なる理念」に終わらせず、経営実務に連動させるためには、次の三つの領域で仕組み化することが有効です。
経営計画との連動
PMVVをもとに、経営年度計画・中期経営計画においてKPI(重要業績指標)や行動目標を設定します。例えば、「現場無事故率」・「顧客満足度」・「警備員定着率」などです。策定した数値目標を、Mission・Visionに照らして設計すると、現場活動が経営成果に結びつきます。
人材育成・教育との連動
警備業界では、教育・研修が法令上も重要です。厚生労働省の「警備業の人材育成のために」資料では、経営理念・行動指針・警備員としてのマナー・職務規律等が項目化されています。
PMVVを社員教育・研修制度に組み込むことで、「この会社の価値観=自分の行動指針」という理解が進みます。さらに、能力評価シート(厚労省資料)を活用して、警備員のレベル・能力開発を可視化することも推奨されます。
顧客・地域対応との連動
2号警備業務は「地域」「顧客」「ドライバー・歩行者」と多様なステークホルダーを相手にします。PMVVを掲げた上で、顧客から見た「安心・信頼」の提供方法を明文化し、現場での定型化を図ることが可能です。たとえば、顧客向け説明資料に「私たちの使命・価値観」欄を設ける、自社サイトにPMVV記載するなどが考えられます。
このように、策定したPMVVを「経営計画」「人材育成」「顧客対応」という三つの軸に連動させ、運用可能な仕組みとすることが、中小の2号警備会社における実践の鍵となります。
結論・まとめ:PMVVを「飾り」ではなく「経営の軸」として機能させるには
本記事では、中小の2号警備会社がPMVV策定で陥りやすい典型的な失敗――経営者独断/目的抽象化/Mission・Vision混同/Value浸透しない/策定後見直しなし――を整理しました。
ポイントを振り返ると、以下の通りです。
-
PMVVとは、Purpose(目的)、Mission(使命)、Vision(将来像)、Value(価値観)を統合した経営ツールであり、2号警備会社においても明確に整理・共有すべきです。
-
中小の2号警備会社では、働き手の確保・定着、地域・顧客信頼、運営基盤の強化という観点からPMVVが特に有効です。
-
策定段階で現場の巻き込みがなく独断で進めると、現場理解が乏しくなり、実践に繋がりません。
-
Purposeが抽象的すぎると、日々の業務(警備・誘導・雑踏対応)に落とし込むことができず、理念が空転します。
-
MissionとVisionを明確に区別し、それぞれに対して具体的な行動指針・目標を設定する必要があります。
-
Valueが共有・浸透しないままでは、会社文化として定着せず、教育・評価制度とリンクしません。
-
策定後に定期的な見直しを行わないと、環境変化に対応できず理念が古くなってしまいます。
-
成功のためには、社員参加型の策定プロセスが有効であり、現場が“自分たちでつくった”という実感を持つことが浸透を促します。
-
策定後はPMVVを経営計画・人材育成・顧客対応に連動させ、運用可能な仕組みとして定着させることが肝要です。
中小の2号警備会社がPMVVをしっかりと機能させることで、日々の警備業務が「目的意識を持った仕事」へと変わり、組織としての成長・人材定着・顧客信頼の向上に繋がります。策定をスタートラインとし、運用と改善を継続することで、PMVVは「掛け声」から「経営の軸」へと進化します。
ぜひ本コラムをきっかけに、自社のPMVV策定・運用を見直してみてください。
参考資料
-
厚生労働省「警備業」職業能力評価基準 等資料
-
厚生労働省「警備業における労働災害防止のためのガイドライン」
-
中小企業庁・経済産業省等「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」
【船井総研】警備業・ビルメンテナンス業経営の無料個別相談サービス
私たち船井総研警備ビルメンテナンス経営研究会では、警備業・ビルメンテナンス業経営などの業種・業態に特化した専門的なコンサルティングサービスを提供しています。このような変化の激しい時代の中で、様々なサポートをしていきたいと考え、日々コンサルティングを実施させていただいております。それに際し無料個別相談のお申し込みを受け付けしております。この機会にぜひ下記詳細をご確認くださいませ。
警備業・ビルメンテナンス業経営・採用などに関する無料個別相談サービスはこちらから
2号警備業界・交通誘導警備ビジネス・交通誘導請負ビジネスの関連記事
交通誘導警備ビジネス・交通誘導請負ビジネスの関連記事は下記をご覧ください。
【警備会社向け:優秀な若手人材の採用】持続可能性の高い警備会社をつくるには?
【2号警備業界の人材採用力強化!】警備スタッフの採用における目標設定と戦略立案の方法とは
人手不足が深刻な警備員・警備スタッフを継続的に採用するためには?
2号警備業界と新卒採用の相性は?初心者でも成功できる理由
【2号警備会社必見!】指導教育責任者の採用手法と育成・戦力化法とは
2号警備業の警備員・警備スタッフ人材の「採用力」と「企業業績」との関連性とは?
警備業・ビルメンテナンス業の最新時流、経営ノウハウが満載の無料メールマガジン
株式会社船井総合研究所(船井総研)セキュリティー・メンテナンスグループでは、「警備スタッフ・ビルメンテナンススタッフの人材採用・人材募集」、「(新規事業としての)警備業の立ち上げ」など、警備業・ビルメンテナンス業の経営全般の最新情報をお伝えしております。
日々のコンサルティング活動の中での成功事例や、時流の変化、戦略論など、現場主義を大切にした最新コンサルティングノウハウを随時発信していきます!この機会にぜひご登録くださいませ。




