中小の清掃会社の離職を防ぐ為に経営者が押さえたいポイント
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株式会社船井総合研究所(船井総研)警備ビルメンテナンス経営研究会です。中小の清掃会社では、人手不足と採用難が深刻化し、離職率上昇が大きな経営リスクとなっています。本コラム記事では、経営者が押さえるべき離職防止のポイントをわかりやすく解説します。
清掃会社で離職が発生しやすい根本原因とは?経営者が知るべき構造的課題
清掃業は、日本の産業の中でも労働集約型の典型であり、慢性的な人手不足に直面しています。
厚生労働省が公表する「労働経済分析」「雇用動向調査」では、宿泊業・飲食サービス業・生活関連サービス業など、人手依存度が高い業種で離職率が高い傾向が示されています。清掃業もこのカテゴリーに含まれ、構造的に離職が起こりやすい環境であると理解できます。
さらに、中小企業庁が示す中小企業の定義にあるように、中小の清掃会社は労務管理や採用教育に使えるリソースが限られています。そのため、採用→教育→現場定着という一連の流れのどこかに欠けが生じやすく、離職が発生しやすい仕組みとなっています。
また、内閣府の「高齢社会白書」によれば、高齢者の就労割合が増加し、清掃業はシニア人材の雇用が多い業種であることが明示されています。シニア人材には健康面や体力面での負担が生じやすく、この点も離職に影響する可能性があります。
清掃業界の離職は、単なる労働条件だけでなく、社会構造・業界特性・企業規模など複数の要因が相互に作用して発生する現象であると言えます。
中小企業の人材不足と清掃業の労働環境が及ぼす離職リスクの実態
清掃業界では、1人当たりの負荷が高まりやすい構造があります。厚生労働省が示す「働き方に関する各種調査」でも、身体的負担・勤務時間の不規則性・業務量の偏りが離職理由に挙げられています。
中でも現場の労働環境と離職率は密接に関連しています。
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早朝勤務が多く生活リズムが乱れやすい
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施設によって広さや作業レベルが大きく異なる
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清掃箇所が増加しても人員が増えず、負荷が増大する
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物理的な疲労による長期継続の難しさ
これらは厚生労働省の「労働者健康状況調査」にも関連しており、身体的疲労が離職に結びつくことが明示されています。中小企業では、スタッフの代替人員が確保しづらいため、一人ひとりの負担が増え、それがまた離職を招く「負の連鎖」に陥りやすい点が特に深刻です。
清掃スタッフが「辞めたい」と感じる瞬間に潜む心理的要因とは?
離職の背景には、労働環境だけでなく「心理的要因」が大きく関係します。厚生労働省の「職場のメンタルヘルス指針」では、メンタル負荷による離職を防ぐための職場づくりが重要とされています。清掃業で特に起こりやすい心理的負荷には次のようなものがあります。
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現場での孤立感が強く孤独を感じやすい
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クレーム対応で自信を失ってしまう
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作業内容が評価されにくいと感じる
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相談相手がいないまま問題が蓄積する
これらは労務管理の範疇であり、経営改善や仕組みづくりで十分防げる問題ばかりです。心理的安全性が低い職場では、些細なストレスが離職につながる点にも注意が必要です。
採用段階で離職が決まる?ミスマッチを防ぐ採用設計のポイント
厚生労働省が公開する「職業情報提供サイト(job-tag)」では、各職種の求められる能力・作業内容・作業環境が詳細に示されています。つまり、採用時点で仕事内容を適切に伝えることがミスマッチ防止につながるということです。
中小清掃会社が採用で陥りやすい失敗は以下です。
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業務内容を「簡単」と過度に伝えすぎてしまう
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現場負荷を十分説明せず採用後にギャップが生じる
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求職者の生活リズム・健康状況を確認しないまま採用する
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研修の手厚さを示せず不安を与えたまま採用する
採用段階の情報提供不足は離職の典型的な原因の一つです。求職者が安心して働けるよう、公的情報を活用した職務説明は有効です。
現場教育とOJTの質が離職率を左右する理由と改善アプローチ
厚生労働省が発表する「能力開発基本調査」では、教育訓練の有無が離職率に影響するというデータがあります。清掃会社の場合、OJTの質がそのままスタッフの定着率に直結します。
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初日の同行指導が適切か
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作業手順が明文化されているか
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いきなり難しい現場に投入していないか
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相談しやすいフォロー体制が整っているか
教育体制が弱い会社ほど、短期離職が増加します。現場教育は労務管理の範囲であり、非弁行為に抵触しません。経営者は教育の「仕組み化」に投資することが、離職防止の最短距離となります。
清掃業務における適正な評価制度と処遇改善の重要性
厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、職務・能力・成果に応じた評価の透明性が求められています。清掃会社では、作業品質を定量化しづらいという悩みがありますが、評価制度がないことで次の問題が発生します。
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スタッフが成長実感を持てない
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貢献度に対する報酬差が曖昧になる
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評価基準が曖昧で不満が蓄積する
処遇改善は、離職防止の中心的なテーマです。特に、清掃現場はパート・シニア人材が多いため、評価制度の明確化は「安心して働ける職場」づくりに直結します。
中小清掃会社に求められるコミュニケーション戦略と現場フォロー体制
厚生労働省が推進する「職場環境改善のためのコミュニケーションガイド」では、定期的な対話・相談窓口の設置・ストレスチェックなどの重要性が強調されています。特に清掃現場は単独業務が多いため、経営者・管理者が意識的にコミュニケーションを設計しなければ、スタッフは孤立します。大切なこととしては例えば、下記のようなことが挙げられます。
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月1回の短時間ミーティング
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作業後の5分報告でフォロー
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チーム単位での情報共有
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現場巡回で直接話を聞く
経営者のコミュニケーション設計能力が離職率を大きく左右します。
業務の属人化を防ぎ、負担を平準化するための運営設計と仕組み化
属人化は、清掃会社にとって最も離職を生みやすい要因の一つです。厚生労働省の「業務改善助成金」などの制度が示すように、業務効率化・生産性向上は国としても推進されているテーマであり、企業規模に関わらず「仕組み化」が優先されるべき領域です。属人化が生まれますと、
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一部スタッフに負荷が集中する
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現場が回らなくなる不安で離職が増える
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新人教育の時間が取れずミスマッチが増える
といったようなことが発生する可能性があります。これを防いでいくためには、
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手順書・マニュアル
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チェックリスト
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作業時間の見える化
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配置基準の明確化
これらの仕組みづくりを進めていくことで効果を発揮します。
シニア人材が活躍する清掃現場の特性と離職防止に有効な対応策
内閣府「高齢社会白書」では、65歳以上の就業率が上昇していることが示されており、清掃業はその受け皿として重要な産業です。しかし、シニア人材には以下の配慮が必要です。
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身体負荷が高い現場を避ける
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作業時間を短くし負担を分散
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相談しやすい体制
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体力に応じた役割分担
シニア人材は経験・責任感が強く、定着しやすい反面、負荷が高いと離職リスクが急上昇します。
離職率を下げるために経営者が今すぐ取り組むべき実務ポイント
最後に、経営者が今日から取り組める実務的なポイントをまとめます。
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現場巡回を増やし、直接話を聞く
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採用基準・説明内容を“正確化”する
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新人教育の初日体験を改善する
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作業負荷の均等化を図る
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評価制度の透明性を高める
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小さな成功体験をスタッフに提供する
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シニア人材への負担軽減策を導入する
いずれも厚生労働省が推進する労務管理の基本原則と一致しており、費用をかけずに実践できるものばかりです。
結論・まとめ
中小の清掃会社における離職は、業界の構造的課題と企業規模による制約が絡み合って生じるものです。しかし、各公的機関が公表するデータを踏まえると、離職は「不可避な現象」ではなく、経営者の仕組みづくりによって確実に改善できるテーマです。
採用段階のミスマッチ防止、教育体制の強化、負荷の平準化、コミュニケーション設計、処遇改善など、一つひとつの取り組みがスタッフの安心と定着につながります。
清掃業は社会に不可欠なインフラであり、現場を支えるスタッフの労働環境を整えることが、中小企業の経営安定と長期的な成長を実現する鍵となります。
参考資料
【厚生労働省】
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労働経済分析(労働経済白書)
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雇用動向調査(入職・離職動向)
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職場のメンタルヘルス対策に関するマニュアル・ガイドライン
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労働者健康状況調査
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働き方改革関連法制度まとめ
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職業情報提供サイト(job-tag)
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能力開発基本調査
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同一労働同一賃金ガイドライン
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業務改善助成金の制度概要
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安全衛生に関する各種資料
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高年齢者雇用安定法・施策資料
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パートタイム・有期雇用労働法ガイドライン
【内閣府】
高齢社会白書
少子高齢化対策に関する各種資料
男女共同参画白書
【中小企業庁】
中小企業白書
小規模企業白書
【総務省】
就業構造基本調査
労働力調査
【国土交通省】
建築物における衛生的環境確保に関する資料
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