中小の清掃会社におけるPMVV策定で陥りやすい失敗とは?

2025年11月27日配信

カテゴリ:
ビルメンテナンス業界 定着 育成

株式会社船井総合研究所(船井総研)警備ビルメンテナンス経営研究会です。中小の清掃会社でPMVVを策定しても、現場に浸透せず形骸化する例は少なくありません。本コラム記事ではPMVVと現場運営を結びつける方法と、策定時に陥りやすい典型的失敗を整理し、改善策を徹底解説します。(※個別の法的解釈・助言ではなく、制度の概要やそれにおける対策などのご紹介をしております。)

PMVVの基本理解不足が生む方向性の迷走とは?

PMVVとは、Purpose(存在意義)、Mission(使命)、Vision(将来像)、Value(行動指針)の4要素によって構成される経営フレームワークであり、中小企業の組織運営において重要な役割を果たします。しかし清掃会社では、PMVVの定義を曖昧なまま策定してしまうケースが多く見られます。特に問題となるのは、PurposeとMissionが混同され、何を実現するために会社が存在し、どのように社会へ価値提供するのかが曖昧になる点です。

中小企業庁が示す「経営指針の必要性」(中小企業庁「経営サポートガイド」)では、企業は理念体系を明確に言語化し、従業員に共有することが重要だと述べられています。しかし、清掃会社では「整理整頓」「清潔を届ける」といった抽象表現の羅列に留まり、理念が行動につながらないケースが散見されます。

PMVVを策定する際には、単なるスローガンの羅列ではなく、事業特性・顧客ニーズ・地域課題・従業員の働き方など、多角的な視点からPurposeやMissionを定義する必要があります。これを怠ると、結果として現場とマネジメント層の間で方向性のズレが生じ、最終的には業務品質や離職率にも悪影響を及ぼすことになります。

清掃会社特有の業務構造を踏まえない抽象的なPurpose設定の問題点

清掃会社における業務の中心は、建物内外の衛生維持、感染症対策、設備保全の補助など、現場での反復作業です。しかし、多くの清掃会社がPurposeを策定する際、この現場構造を踏まえず、「地域に貢献する」「清潔な環境を提供する」など抽象度の高い表現に終始します。

厚生労働省が公表する「清掃業に関する安全衛生資料」(労働安全衛生法に基づく指針)では、清掃作業におけるリスク・作業手順・衛生管理の重要性が明確に示されています。このような実務的な背景を反映しないPurposeは、従業員の共感を得られず、行動指針として機能しません。

優れたPurposeは、地域の建築物を支え、利用者の健康を守り、持続可能な社会インフラとして清掃業が果たす役割を具体的に示す必要があります。これを怠ると、PMVVが机上の空論となり、社内に浸透しない原因となります。

Missionが“現場作業”と乖離してしまうと組織はどうなるか

清掃業のMissionは、現場の作業プロセスと密接に連動している必要があります。清掃スタッフは日々、時間帯の制約や作業箇所の制限、安全リスクなど、多くの現場要因に直面します。しかし、Missionがこれら実務に寄り添わず、抽象的な理念だけを示しても、現場の行動には結びつきません。

厚生労働省の「労働生産性向上に関するガイドライン」では、現場改善と組織文化を結びつけるプロセスの重要性が強調されています。つまり、Missionは現場の改善活動や品質向上の指針として機能しなければならないのです。

現実と乖離したMissionは、従業員の納得感を失わせ、理念への信頼を損なう結果となります。この状態が続くと、理念浸透が進まず、離職率が高まる傾向さえ生まれます。

Visionが現実性を欠くことで起きる清掃スタッフのモチベーション低下

Visionは企業の未来像を示す指針ですが、中小の清掃会社においては、過度に理想化されたビジョンを掲げがちです。たとえば「全国展開」「業界トップクラスの企業に」など、実現可能性が見通せない表現が頻繁に用いられます。

中小企業庁「中小企業白書」では、現実的かつ実行可能な中期計画の策定が重要であると指摘されています。Visionが現実とあまりに乖離していると、「どうせ無理だ」という心理が現場に広がり、かえって組織の士気を低下させます。

また、清掃業は地域密着型のビジネスモデルであるため、Visionは地域社会や顧客との関係性を軸に設計するべきです。これを怠ると、ビジョンは組織を一つにまとめる力ではなく、分断を生む要因になります。

Valueが形骸化し、日常業務に浸透しない典型的な原因とは

Valueは行動規範や判断基準を示す重要な要素ですが、中小の清掃会社では次のような問題が起こります。

  • Valueが抽象的すぎる

  • 作業手順と紐づいていない

  • 研修・評価制度と連動していない

  • 現場で読み返されない

厚生労働省が公表する「職場における労働生産性向上支援資料」では、人材育成と行動指針の連動がパフォーマンス向上に寄与すると述べられています。つまり、Valueを浸透させるには、研修・OJT・評価基準と一体化させなければいけません。言葉だけのValueでは、現場の判断基準として機能せず、最終的には形骸化します。

現場責任者・リーダー層の巻き込み不足が招くPMVVの形だけ運用

清掃会社では、現場責任者やリーダー層がPMVV策定に関わらないことが多く、これが大きな失敗要因となります。PMVVは現場で実践されてこそ意味を持つため、現場の理解・納得・主体性が欠けると運用は必ず停滞します。

内閣府「働き方改革実行計画」でも、現場起点の改革が組織文化に影響を与えると記されています。トップダウンだけでPMVVを作成しても、現場の意見や課題を踏まえていなければ、実行性の低い指針となり、浸透しないまま終わります。

清掃品質・安全管理の指標とPMVVがリンクしない危険な状態

清掃品質や安全管理は、業務そのものの核心です。厚生労働省の労働安全衛生情報では、清掃作業時の転倒・薬品取扱い・高所作業のリスクが明確に示されています。
しかし、PMVVと品質指標・安全指標が結びついていないケースが多く、これは非常に危険です。

目的や理念が安全管理に反映されていないと、以下のような問題が起こります。

  • 安全手順が軽視される

  • 品質バラつきが放置される

  • 新人教育で価値観が伝わらない

PMVVは品質管理や現場ルールの基盤として設定する必要があります。

設定したPMVVを教育・評価制度に反映できない構造的な問題点

PMVVを作っても、研修や評価制度に反映されなければ浸透しません。
厚生労働省「人材育成支援策」でも、教育体系と経営方針の連動が重要と示されています。

しかし清掃会社では、

  • 評価項目がPMVVと無関係

  • 行動指針が教育資料に含まれていない

  • 新人研修が現場説明だけで終了

といった問題が多く、理念が社内文化として定着しません。教育・評価の両面でPMVVを扱うことが、組織運営の根幹となります。

外部環境(人材難・単価下落・競合)を考慮しないPMVVのリスク

清掃業界は慢性的な人材不足、取引単価の低迷、設備管理会社との競争など、外部環境が厳しい産業です。中小企業庁「業種別中小企業動向」でも、人材確保と事業継続が主要課題として挙げられています。

それにもかかわらず、PMVVを外部環境と切り離して策定すると、実際の経営課題に対応できない理念になってしまいます。例えば以下のような失敗が生まれます。

  • 人材難への対策が理念に含まれない

  • 価格競争を前提としない無理なビジョン

  • 社員の働き方改革を考慮していない

理念は現実の経営課題と一体で策定する必要があります。

策定後の運用ロードマップ欠如による“作って終わり化”の落とし穴

多くの中小清掃会社では、PMVV策定後に運用計画が存在しないため、理念が社内に浸透しません。内閣府の地域企業支援資料でも「計画策定後のPDCAの必要性」が強調されています。PMVV運用には以下が必須です。

  • 浸透計画

  • 研修計画

  • 評価基準との連動

  • 月次レビュー

  • 管理職教育

これらがなければ、PMVVは「作業」で終わり、企業文化として根付くことはありません。

結論・まとめ

中小の清掃会社におけるPMVV策定で失敗が起こる理由は、理念の抽象化、現場との乖離、外部環境を踏まえない設計、教育制度との非連動など、多岐にわたります。

しかし、中央省庁の資料に基づく組織改善・安全管理・人材育成の知見を取り入れながら、PMVVを現場レベルで活用すれば、理念は実務と結びつき、社員定着・品質向上・顧客満足度向上につながります。

清掃会社にこそ、PMVVを「作る」だけでなく「運用する」ことが求められます。

参考資料

【1】中小企業庁

「中小企業白書」
「小規模企業白書」
「経営サポートガイド」
「業種別中小企業動向調査」
「働き方改革推進に向けた中小企業支援情報」

【2】厚生労働省

「労働安全衛生法関連資料」
「職場における労働生産性向上支援資料」
「人材育成支援施策(人材開発支援助成金等)」
「清掃作業安全対策資料」
「働き方改革関連法」概要資料

【3】内閣府

「働き方改革実行計画」
「地域企業支援に関する資料」
「経済財政白書」

【4】総務省

「労働力調査」
「統計局 産業別就業データ」
「地域経済統計」

【5】環境省

「環境衛生管理関連資料」

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