中小のビルメンテナンス会社におけるPMVV策定で陥りやすい失敗
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株式会社船井総合研究所(船井総研)警備ビルメンテナンス経営研究会です。中小のビルメンテナンス会社がPMVV策定で陥りやすい失敗を整理し、理念の形骸化を防ぐための実務視点の改善策を解説します。採用・教育・定着にも直結する重要ポイントを公的資料をもとにまとめています。
ビルメンテナンス会社におけるPMVV策定の重要性とは
ビルメンテナンス会社の経営では、現場業務が細分化しやすく、組織全体の方向性が見えにくくなる傾向がございます。
特に中小企業では経営者と現場の距離が近い一方で、理念や方針の共有が体系化されていないケースが多く見られます。
こうした状況において、PMVV(Purpose/Mission/Vision/Value)を正しく策定することは、企業の持続的な成長に欠かせない土台となります。
PMVVは経営理念や行動基準を明確にし、ビルメンテナンス業の特性である「属人的作業」「多拠点運営」「高齢化した人材構造」などの課題解決にも役立つフレームワークでございます。
しかし、中央省庁で示されている「中小企業の経営課題」(※出典:中小企業庁「中小企業白書」)でも示されている通り、理念の未整備は組織の生産性低下や採用難を招きやすいとされています。
PMVVが正しく定義されることで、人材採用や育成方針が整理され、企業が進むべき方向が共有されます。
さらに、PMVVは中長期計画や現場教育と紐づけられることで、企業文化として浸透し、現場の行動に一貫性が生まれます。
ビルメンテナンス業では、日々の業務品質が評価につながるため、組織全体の価値観が強く影響を与えます。
そのため、PMVV策定は単なるスローガン作成ではなく、経営戦略と現場運営を結ぶ重要なプロセスでございます。
しかし多くの中小企業がこのプロセスでつまずき、形骸化したPMVVを掲げてしまうのも事実です。
本章では、ビルメンテナンス会社がどのような課題を抱えやすいのか、根拠をもって整理してまいります。
Purpose(存在意義)が抽象的すぎて現場に浸透しない問題
Purposeは企業の存在意義を示す最も根本的な概念ですが、中小のビルメンテナンス会社では抽象的になりがちな特徴がございます。
例えば「地域社会に貢献する」「安全で快適な環境をつくる」といった表現は正しいものの、現場スタッフが日々の作業にどう結びつければ良いのか判断しにくい状況を生みます。
厚生労働省の「職場における意識改革に関する資料」でも、組織文化の明確化が働きやすさや離職率低下に影響すると示されています。
しかしPurposeが抽象的であると、理念が文化として現場に浸透せず、日常の行動に反映されなくなります。
特にビルメンテナンス業では、清掃、設備管理、警備など業務が多岐にわたるため、抽象概念だけでは指針として弱くなります。
Purposeが曖昧な状態では、スタッフ同士の判断基準にばらつきが生じ、品質の安定性にも影響が出ます。
また、Purposeを提示しても、現場の語彙や具体的行動に落とし込めなければ浸透は難しくなります。
中小企業庁の調査でも「理念を理解していない従業員が多い企業は、業務品質のばらつきにつながりやすい」と指摘されています。
このように、抽象度が高すぎるPurposeは、経営者が意図した方向に現場が動かない大きな原因となります。
Purposeは「短時間で理解できる」「行動に結びつく」「現場が使いやすい」ものであることが必要でございます。
そのため、ビルメンテナンス業の実態に合わせた具体性を持たせることが重要です。
次章では、Missionとの不整合が起きる典型的なケースについて解説してまいります。
Mission(使命)の定義が事業構造と一致していない失敗例
Missionは企業が果たすべき役割を示すものですが、ビルメンテナンス業では事業の実態と乖離しているケースが多く見られます。
例えば設備管理を主力とする会社にもかかわらず、清掃を中心としたMissionを掲げるなど、現場業務との整合性が取れていないことがございます。
厚生労働省「働き方に関する調査」では、職務内容と組織方針が一致しないことは、職場の混乱やストレスにつながると報告されております。
ビルメンテナンス業は多業務型であるため、Missionの方向性がぶれると、部署ごとの動きがバラバラになりやすいのが特徴です。
また、事業構造を分析せずにMissionを定めると、戦略投資や人材配置の優先順位も曖昧になります。
中小企業庁「中小企業白書」でも、ミッションと事業実態の不一致は、中期的な業績停滞を招く可能性があるとされています。
Missionが曖昧または不一致であると、現場スタッフの行動基準にも混乱が生じ、品質の均一化が難しくなります。
さらに採用ページや求人票にも影響し、求職者にとって「何を使命としている会社なのか」が伝わらず、採用力低下にもつながります。
Mission策定では、自社の業務割合、売上構造、顧客課題を正確に分析したうえで、何を最優先にするか明確化する必要がございます。
これができていない場合、理念と業務が分離し、現場が疲弊する組織構造が生まれてしまいます。
Vision(将来像)が数値・期間と紐づかず形骸化するリスク
Visionは未来の理想像を示すものですが、特に中小のビルメンテナンス会社では、抽象的な未来像だけを掲げてしまい、実行計画につながらないケースが多くございます。
たとえば「地域で選ばれる会社になる」「業界を代表する企業になる」といった表現は方向性としては正しいものの、期間や数値が設定されていない場合、具体的なアクションに落とし込めません。
内閣府「成長戦略に関する資料」でも、中小企業におけるビジョンの明確化と具体化が、経営の持続性と競争力強化に寄与すると示されています。
しかしVisionが具体化されていない場合、社員が何を達成すべきか判断できず、計画倒れになることが多く見られます。
また、ビルメンテナンス業は人材集約型産業であり、Visionが不明瞭だと採用戦略・教育計画・営業方針など多方面に影響を与えます。
社員が向かう方向が定まらない状態では、組織全体の生産性向上も期待しにくくなります。
さらに、Visionが抽象的なまま提示されると、現場スタッフが目標を実感できず、会社目標を「自分ごと化」できません。
中小企業庁の調査でも、数値・期間と紐づいたビジョンを持つ企業は業績が伸びやすい傾向があると指摘されています。
そのため、Visionは「期間設定」「数値目標」「行動基準」を組み合わせて策定することが欠かせません。
具体的かつ現場が理解しやすいVisionであるほど、組織は一体感を持って動くことができます。
Value(行動指針)が抽象論に偏り現場で運用されない原因
Valueは従業員の行動基準となる重要な項目ですが、抽象的な言葉を並べるだけでは現場で活用されません。
特にビルメンテナンス業は作業手順が多く、顧客との接点が多い業務であるため、行動指針の明確性が求められます。
しかし多くの中小企業では「誠実」「挑戦」「貢献」といった理念ワードだけを提示し、行動に結びつける仕組みが整っていません。
厚生労働省「職場の行動指針づくりの要点」でも、行動基準は具体的な行動との紐づけが重要であると示されています。
また、Valueが抽象的すぎる場合、社員ごとの理解に差が出てしまい、品質のばらつきにもつながります。
清掃現場や設備点検現場では、「どう行動するか」の基準が明確でなければ、判断の違いが品質に直結します。
さらに、Valueを研修・評価制度に組み込まない企業も多く、制定しただけで終わってしまうケースも散見されます。
中小企業庁の資料でも「行動指針が運用されていない企業は、理念浸透の効果が乏しい」と指摘されています。
Valueは、日常の行動レベルまで具体化し、朝礼やミーティングで繰り返し共有される必要がございます。
また採用時の説明や新人教育にも組み込むことで、Valueが企業文化として根づきます。
この章では、Valueの抽象化によって生じる問題を整理しましたが、次章では策定プロセスに関する失敗パターンについて解説いたします。
経営陣だけでPMVVを策定し、現場を巻き込まないプロセスの失敗
PMVVを経営陣だけで作成するケースは、中小のビルメンテナンス会社で非常に多く見られます。
しかし厚生労働省「働きがい向上のための職場づくり研究」でも示されている通り、組織文化形成には現場参加が欠かせないとされています。
経営陣のみで理念を決定してしまうと、現場が自分事として捉えづらく、浸透が進まないことが大きな課題になります。
ビルメンテナンス業では、清掃、設備管理、警備など、現場ごとの文化や判断軸が異なる場合があります。
そのため、現場を巻き込まずに策定したPMVVは、実情と合わない内容になりやすく、現場への説明も難しくなります。
また、現場スタッフが抱える課題や価値観を反映できないため、自社らしさを欠いた理念になりやすい点も問題です。
さらに、中小企業庁「働き方改革支援調査」では、現場の声を反映した施策は組織定着率に好影響を与えるとされています。
現場参画がないPMVVは、内容が正しくても「押し付けられた理念」と捉えられ、逆効果になる可能性もございます。
理念策定には、職種別・役職別のワークショップ形式を取り入れるなど、共創型のプロセスが必要でございます。
現場参加により、理念の言語が現場スタッフの語彙に合わせて調整され、運用しやすいPMVVが生まれます。
こうした巻き込み型のアプローチは、理念浸透だけでなく、採用ページや研修内容にも一貫性を与える効果がございます。
PMVVが現場と乖離した内容になることを防ぐためにも、策定プロセスの設計は非常に重要となります。
日常業務や評価制度とPMVVが連動していない運用上の課題
PMVVを策定しても、日常業務と紐づかなければ浸透は進みません。
特にビルメンテナンス業では、現場作業が中心であるため、理念を実務に反映する工夫が不可欠です。
厚生労働省「人材定着支援ガイド」でも、職場の方針と日常業務の整合性が働きがいに直結すると示されています。
多くの中小企業では、PMVVと評価制度が連動していないため、理念が行動変容につながりません。
たとえばValueで「丁寧な報連相」を掲げても、評価項目に含まれていなければ行動として定着しないのが実態です。
評価制度と理念が無関係のままでは、社員は何を重視して行動すべきか判断しづらくなります。
また、業務手順書やマニュアルにPMVVが反映されていない企業も多い状況です。
清掃業務や設備点検などの手順書に理念を組み込むことで、現場での判断基準が統一され、品質安定につながります。
さらに、中小企業庁の調査では「理念を実務に落とし込む企業は生産性が高い」とされています。
日常業務とPMVVが連動していないと、理念の存在意義が薄れ、組織文化として定着しづらくなります。
そのため理念は評価制度、研修、マニュアル、朝礼内容などに一貫して反映することが重要でございます。
運用面の整合性が取れたとき、PMVVははじめて企業の強い軸として機能します。
採用・教育・定着施策にPMVVを反映させられない構造上の問題
PMVVは採用活動にも強く影響を与える要素であり、新規応募者に企業の姿勢を伝える重要な役割を果たします。
しかし中小のビルメンテナンス会社では、採用ページ・求人票に理念を反映できていないケースが多くございます。
中小企業庁「人材確保支援資料」でも、理念提示は応募者の理解促進に寄与すると示されています。
教育・研修でもPMVVの活用が不十分な企業が多く、新人研修や現任教育の場で理念が扱われていないことも問題となります。
理念を教育に織り込まない場合、新入社員は「会社として大切にしている価値観」を理解しないまま業務に入ってしまいます。
その結果、行動のズレが生まれ、小さなトラブルや品質低下につながることもございます。
さらに、離職防止の観点でもPMVVの重要性は高いとされています。
厚生労働省「職場定着支援の要点」では、自分の仕事が組織理念と結びつくほど、定着率が向上する傾向が示されています。
理念が明確である企業ほど、従業員は自らの役割を理解しやすく、働きがいを感じやすくなります。
PMVVを採用・教育・定着に活用できない理由として、策定後の活用プロセスが整備されていない点が挙げられます。
ビルメンテナンス業は多拠点型組織であるため、拠点ごとの伝達ルールを作成し、理念共有を仕組み化することが不可欠です。
理念を採用から教育・定着まで連動させることで、組織全体の統一感が高まり、生産性と品質向上につながります。
社内コミュニケーション設計不足で理念浸透が進まない失敗
PMVVが浸透しない最大の理由のひとつが、社内コミュニケーション不足でございます。
ビルメンテナンス業は現場が分散しているため、理念共有の場が少なく、伝達が断片的になりやすい特徴があります。
中小企業庁の調査でも、コミュニケーション不足は業務品質と組織統合に悪影響を及ぼすと指摘されています。
例えば、朝礼やミーティングで理念について触れる時間がほとんどない企業が多い状況です。
理念を共有する場がなければ、PMVVが掲示されていても形骸化してしまい、従業員の意識に定着しません。
また、管理職が理念を説明できないケースも多く、現場リーダー教育の不足も課題となります。
厚生労働省「働きやすい職場づくりガイド」では、理念浸透には上司の説明力が重要とされています。
管理職が理念の背景や意味を語れるかどうかで、現場浸透率が大きく変わるとされています。
コミュニケーション不足は、意図しない品質のばらつきにもつながり、クレーム増加の原因となる場合もあります。
理念浸透には、定期的な共有場、教育体系、双方向コミュニケーションの仕組みが必要です。
ビルメンテナンス業では拠点巡回やオンライン連絡網を活用し、理念共有の頻度を高めることも有効です。
理念が共有される環境が整うことで、組織文化としてPMVVが根づき、安定した品質提供につながります。
PMVV策定後のPDCA体制が構築されず、改善しない組織の特徴
PMVVは策定して終わりではなく、運用し続けて改善するPDCAが欠かせません。
しかし多くの中小ビルメンテナンス会社では、策定後の見直し体制が整っておらず、理念が固定化されたまま運用されています。
中小企業庁「組織改善に関する資料」でも、理念は定期的な見直しが必要であると示されています。
PMVVのPDCAが機能しない理由として、業務が多忙で振り返り会議が行われない点や、理念に関するKPIが設定されていない点が挙げられます。
KPIが存在しない場合、理念浸透の進捗が判断できず、改善活動が停滞します。
また、現場の声を収集する仕組みがないと、理念と現場のギャップが拡大することもございます。
厚生労働省の資料でも、現場フィードバックの重要性が強調されており、理念運用においても同様でございます。
見直し体制が機能しない組織では、PMVVが時代変化や顧客ニーズに追随できず、戦略の陳腐化を招く恐れがあります。
ビルメンテナンス業は環境変化が激しい産業であるため、定期的な理念点検は必須となります。
PDCA体制を整備することで、理念は常に最適化され、現場に合わせて改善され続けます。
策定後の継続的な運用こそが、企業文化としてのPMVVを確立する大きな鍵でございます。
結論・まとめ
本コラムでは、中小のビルメンテナンス会社におけるPMVV策定で陥りやすい失敗を10項目にわたり整理いたしました。
Purpose、Mission、Vision、Valueのいずれも、抽象的であったり、現場とかけ離れている場合、理念は形骸化しやすい傾向がございます。
また、策定プロセスで現場を巻き込まないこと、採用や教育に反映しないこと、日常業務と連動させないことなど、運用段階の課題も多く見られます。
特に中小企業庁や厚生労働省が公表している資料でも、理念と業務の一貫性が組織文化形成と生産性向上に寄与すると明確に示されています。
PMVVは単に掲げるだけでなく、評価制度、教育体系、採用、業務手順など、組織全体に浸透させる仕組みが必要です。
ビルメンテナンス会社においては、多拠点運営・多職種構造という特性上、とりわけ理念共有の仕組みが重要となります。
さらに、策定後にPDCAを回し続けることで、理念は企業の成長段階に合わせて進化し、現場との整合性を保ち続けます。
PMVVを経営の中心に据えることで、採用力、定着率、品質、顧客満足の向上にもつながり、組織の持続的成長を実現できます。
本コラムが、御社の理念策定と運用改善の一助となれば幸いでございます。
参考資料
■ 厚生労働省
「働きがい向上のための職場づくりに関する研究」
「職場における意識改革・行動改革に関するガイド」
「職場定着支援のポイント」
「働き方・職場意識に関する調査」
「人材定着支援ガイドライン」
「働きやすい職場づくりガイド」
■ 内閣府
「成長戦略に関する資料(経済財政運営と改革)」
「企業行動と職場環境に関する調査」
■ 中小企業庁
「中小企業白書(年度版)」
「小規模企業白書」
「人材確保支援に関する資料」
「働き方改革支援調査」
「組織改善・生産性向上のためのガイドライン」
「企業経営における理念浸透事例集」
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