株式会社船井総合研究所(船井総研)警備ビルメンテナンス経営研究会です。人手不足に直面する中小警備会社では、出入管理の見直しが業務品質・効率化・顧客満足度向上に直結します。本コラム記事では、仕組み化・標準化・DX活用・教育改善を通じて、少人数でも安定した警備品質を維持する方法を経営者視点で徹底解説します。
※法的解釈・助言ではなく、制度の概要・対策をご紹介しています。
人手不足が警備業の出入管理に与える影響とは?
現在、多くの中小警備会社が深刻な人手不足に直面しています。警備業は労働集約型産業であり、十分な人員を確保できない場合、現場運営に直接支障が生じます。その中でも出入管理は「もっともミスが起きやすい業務」であり、人員の不足や経験の浅いスタッフが増えるほど、ヒューマンエラーが発生するリスクが高まります。
人手が不足すると、「複数の業務を一度にこなす」「新人教育が追いつかない」「休憩中でも対応が必要になる」など、担当者の負荷が増大します。その結果、入退室確認の漏れ、記録忘れ、顧客ルールの見落としといったミスが起きやすくなり、クレームやトラブルにつながる構造が生まれます。
さらに、厚生労働省が示す「労働安全衛生法関連資料」でも、労働者の過重負荷は事故発生率の上昇につながると警鐘を鳴らしています。人手不足の状態で複数の業務を抱えると注意力が低下し、重要な手順を見落とす可能性が高まることは、科学的にも裏付けられています。
つまり、人手不足時代こそ、出入管理を改めて見直し、仕組みとして強化する必要があるのです。
※法的解釈・助言ではなく、制度の概要・対策をご紹介しています。
属人化が進む出入管理運用のリスクと課題
人手不足が続く中小警備会社では、現場運用が属人化しやすく、担当者によって品質がばらつく傾向があります。本来、出入管理は「誰が担当しても同じ品質を担保できる仕組み」が求められる業務ですが、属人化が進むと、次のような問題が発生します。
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担当者によって手順の理解度が異なる
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顧客ごとのルールが共有されない
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新人が育つ前に現場に投入される
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ミスが発生しても原因が不明確になりやすい
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トラブルが属人的な判断により拡大する可能性がある
特に重大なのは、ルールの解釈が担当者ごとに異なる点です。たとえば「外来者の許可証確認」「持ち込み品のチェック」「退出時の荷物確認」など、基本的な手順ですら担当者が独自判断で対応してしまうケースは少なくありません。
厚生労働省が公表する「労働災害防止指針」では、安全確保のために「手順の統一性」が重要とされています。これは出入管理においても同様で、属人化した運用では品質の安定化が不可能です。
属人化は「ミスが起きる構造」を生み出す最大のリスクであり、人手不足時代には特に顕在化しやすい課題です。
少人数でも品質を維持するために必要な仕組み化の視点
人手不足でも高い品質を維持するためには、個々のスキルや経験に頼るのではなく、「仕組み化」で現場全体の再現性を高める必要があります。
仕組み化とは、
・判断基準の明確化
・担当者間のばらつき削減
・新人でもすぐ実務ができる状態
をつくることです。
この仕組み化を進めるうえで重要なのが、次の三つの視点です。
①ルールの明文化と可視化
曖昧な表現を排除し、手順を具体化することで、担当者が迷わず行動できます。
②運用フローの標準化
入退室時の流れを誰でも実行できる形に整え、再現性を高めます。
③記録・報告のDX化
紙の記録に依存せず、自動化・簡素化することでミスを減らします。
これらの視点は、総務省が公表する「自治体DX推進手引き」で示されている考え方とも一致しており、業務効率向上に直結する施策です。
仕組み化は、人手不足時代において「教育しなくても一定品質を維持できる体制」をつくる最強の経営手法です。
出入管理の標準化が現場負担を軽減する理由
標準化とは、現場スタッフが同じ行動を同じ手順で実行できる状態をつくることです。出入管理を標準化すると、現場負担の軽減、ミスの減少、顧客満足度向上といったメリットが同時に得られます。標準化が現場負担を減らす理由は三つあります。
①判断に迷う時間がなくなる
手順が明確であれば、担当者は迷わず行動できます。「どうすればよいか」を考える時間が削減されます。
②教育時間が短縮される
標準化された手順は教材化しやすく、新人でも理解しやすい構成になります。
③間違えるポイントが減る
標準化は“ミスを前提にした設計”であり、すべての工程が安全側に寄せてあります。
厚生労働省が示す「労働安全衛生のための作業手順整備」の考え方も、標準化の重要性を裏付けています。
わかりやすい手順は安全管理の第一歩であり、出入管理においても同様です。
標準化は、少人数でも高品質な業務を維持するために不可欠な要素です。
人手不足時に顕在化するミス・トラブルを未然に防ぐ方法
人手不足が続くと、小さなミスが積み重なり、重大トラブルにつながるケースが増加します。特に以下のような事象は、人手不足時に急増しやすい項目です。
入退室記録の漏れ
許可証の確認忘れ
持ち込み・持ち出し品の取り違え
外来者対応の遅れ
顧客ルールの理解不足
これらを未然に防ぐためには、
①手順書の簡素化
②チェックリストの設置
③DXによる記録自動化
④現場巡回による定期確認
⑤ヒヤリハット情報の共有
が必要です。
特にヒヤリハットの収集は効果が高く、厚生労働省の「労働災害防止指針」でも重要性が強調されています。実際の事故に至らない“予兆”を蓄積し改善することで、大きなトラブルを未然に防ぐことが可能です。
また、改善策を「ルール」「教育」「DX」の三方向から実施すると、より効果が高まります。
DX活用で出入管理を効率化する最新手法とは?
人手不足が深刻化する中、出入管理の効率化においてDX(デジタル・トランスフォーメーション)の活用は不可欠になっています。DXを適切に取り入れることで、少人数体制でも高い品質の入退室管理を実現でき、現場の負担も大幅に軽減されます。
まず、DXの代表的な取り組みとして 入退室管理システムの導入 が挙げられます。ICカードやQRコードによる入退室記録は、紙の台帳管理と比較して圧倒的に効率的です。記録漏れや記載ミスを防ぐだけでなく、データが自動的に蓄積されるため、管理者がリアルタイムで確認できるメリットがあります。
総務省が提示する「自治体DX推進手引き」でも、手作業プロセスの削減と情報のデジタル管理が推奨されており、警備業の出入管理にも十分応用可能です。
次に、クラウド型出入管理システムの活用です。クラウド化により、複数の現場情報を一括で管理できるため、少人数での運用に最適です。管理者が離れた場所にいても、入退室状況や異常の有無をリアルタイムで把握でき、異常発生時には即座に対応できます。
さらに、モバイルアプリを活用した出入管理も広がっています。スマートフォンや専用端末を用いて入退室の記録や報告を行う仕組みは、若手警備員にも馴染みやすく、操作負担も少ないため効果的です。現場の移動が多い警備業では特にメリットが大きい領域です。
DXによる効率化は、「少人数でも回せる現場」をつくる上で非常に重要です。人手不足の時代にこそ、出入管理を“アナログ依存”の状態から脱却し、デジタル管理へシフトすることが求められています。
教育・研修が難しい時代に対応する出入管理の育成戦略
人手不足が常態化している警備会社では、「教育に割く時間がない」という問題が発生しやすくなります。新人スタッフを採用しても、十分な研修時間を確保できず、未熟な状態で現場に投入されてしまうケースが増えています。
しかし、出入管理は細かい手順が多く、教育なしでの現場投入はトラブルリスクが高まります。そのため、少人数でも教育効果を高めるためには、以下の三つが鍵となります。
①教育内容の標準化と動画・チェックリスト化
紙マニュアルだけでなく、動画教材やチェックリストを活用することで、短時間でも要点をつかむことができます。厚生労働省が示す「職業能力開発に関する指針」でも、視覚教材の活用は習熟度向上に効果があるとされています。
②OJTの効率化
OJTは現場での実践を通じた学習ですが、指導者の技量により教育品質が変わりやすい課題があります。そこで、OJT用の共通シナリオやロールプレイ手順を整備し、誰が教えても一定の品質になる状態をつくることが重要です。
③理解度の可視化とテスト導入
理解度テストや実技評価を導入することで、担当者がどの程度理解しているかを把握できます。曖昧なまま現場に出すのではなく、一定の基準をクリアしてから現場配置する仕組みが有効です。
教育は時間が確保できないからこそ、仕組み化する必要があります。人手不足時代には“短時間で最大の教育効果を出す仕組み”が求められています。
複数現場を少人数で管理するための運用ポイント
警備会社の多くは複数現場を抱えており、人手不足が進む中では「少人数で複数現場を回す」という運用が避けられません。この状況に適応するためには、現場負担を最小限にする仕組みが必須となります。運用ポイントは次の五つです。
①現場間で運用ルールを統一する
現場ごとにルールが違うと混乱が生まれ、ミスが発生します。同じ会社であれば“統一ルール”を設けることが重要です。
②書類・記録を電子化し、持ち運び負担を軽減する
台帳が紙の場合、各現場での情報共有が困難になります。クラウド化することで、担当者はどこでも同じ情報にアクセスできます。
③巡回監督者が遠隔でも確認できる体制を整える
現場への移動時間削減は重要です。遠隔で入退室状況が把握できれば、少人数でも複数現場を管理しやすくなります。
④チェックリストを全現場で統一する
確認項目が統一されることで、担当者の判断ミスが減り、教育もしやすくなります。
⑤緊急時の連絡体制を一本化する
出入管理は緊急時の対応によって信頼性が左右されます。連絡フローを統一し、誰でも対応できる状態をつくることが必要です。
人手不足時代では「現場ごとに違う運用」は最大のリスクです。統一化が進んだ会社ほど、少人数でも品質を安定させることができます。
顧客満足度を高める出入管理レベル向上策
出入管理のレベルが高い会社ほど、顧客からの評価が高まりやすい傾向にあります。顧客企業は、警備会社に対して「重要区域を安全に管理してほしい」「来訪者をスムーズに処理してほしい」という明確な期待を持っています。
出入管理が不十分ですと、顧客の不安要素が増え、評価が低くなります。出入管理のレベル向上に必要な要素は次の三つです。
①顧客ルールと自社ルールの整合性を取る
顧客ごとに入退室基準が異なるため、事前にルールの確認とすり合わせが重要です。
②記録の正確性・迅速性を高める
紙台帳からデジタル台帳へ変えることで、記録品質が向上します。これは顧客の安心感につながります。
③トラブル発生時の説明責任を果たせる状態をつくる
記録や手順が明確であれば、顧客からの問い合わせにも正確に回答できます。
出入管理が強い会社ほど、顧客企業から「任せて安心」と評価されやすく、契約更新率が高くなる傾向があります。人手不足時代でも顧客満足度を維持するためには、出入管理の品質向上が不可欠です。
人手不足でも強い警備会社が実践する出入管理改善の共通点
最後に、人手不足でも高品質を維持している警備会社には共通点があります。それは次の五つです。
①標準化を徹底している
ルールと手順が統一され、誰が担当しても同じレベルの品質を出せる状態が整っています。
②教育体系が整っている
短時間で教育が完結する教材が揃っており、新人がすぐに戦力化されています。
③DXが進んでいる
アナログ管理の比率が低く、記録は自動化され、管理者が遠隔で確認できる体制が整っています。
④改善のサイクルが確立している
ヒヤリハットやトラブル事例を収集し、改善を繰り返す文化があります。
⑤経営者が現場運用に関心を持っている
出入管理を単なる現場任せにせず、経営課題として扱い、改善に投資しています。
これらの共通点を持つ企業ほど、少人数でも高い品質で出入管理を運営しています。人手不足の時代を乗り越えるためには、仕組み化・教育・DXの整備が不可欠だと言えます。
参考資料
・厚生労働省「労働安全衛生法関連資料」
・厚生労働省「労働災害防止のための指針」
・厚生労働省「働き方改革関連法ガイドライン」
・内閣府「デジタル社会に関する基本方針」
・総務省「自治体DX推進手引き」
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